強面オーナーに「客とホテルに行ってこい」と言われ行った。おびえていた私に渡されたのは『マンションの鍵』『外車の鍵』『ホテルの鍵』喋れなくなると客は・・・

バブルの頃、女子大生だった私はスポーツクラブの受付のバイトをしていた。

そこは芸能人とか経営者とかバブリーな人が来る、年会費高めのスポーツクラブでバイト代もよかった。

ある時、オーナーから呼び出されて「Aさんが君と食事をしたいと言ってるからホテルに行って」
と、突然言われてびっくりした。

当時二十歳になったばかりだったし彼氏いないし、携帯もネットもない時代だったから誰にも相談できない。

オーナーは強面だけど、それでもなんとか断ろうと思って「このあと予定が…」とか「残業になりますか?」とか

必死に断ろうと頑張ってみたけど、金はだしてやるからとにかく行け!と。
最後の方は口調が乱暴になりつつあり、もうおとなしく食事に行ったほうがこの状況よりマシかもと諦めた。

本当にご飯食べるだけかもしれないし…とか、

なんとかいい方向に考えるようにして、着替えて通用口から出ようとしたら

オーナーが待ち構えてて「正面玄関にAさんが車で待ってるから、そっちに行け」って言われ逃げられなかった。

もう半泣きで、Aさんが運転するなんかよくわからないけど高級そうな外車に乗って高級ホテルのレストランに行った。

田舎から出てきて、一人暮らししてちょっと派手目なファッションするようになった自分を恨んだ。

中尊寺ゆつこの漫画のキャラみたいなファッションしてた。だから軽い子と思われたんだと後悔した。

Aさんはクラブの上客で、当時50歳ぐらい。仕事は何をしているのか私は知らなかったけど

指に金のでかい指輪2つつけてて、派手なシャツと高そうなスーツなんだけど小柄な西田敏行みたいな感じ。

でもいままで受付のマニュアル的な会話以外したこともないし、Aさんと世間話すらしたことなかった。

今思えばオーナーも30代であんな高級ジム経営してたし、ちょっとアレな人たちだったのかもしれない。

ホテルの最上階の夜景が綺麗なバーに初めて入った。そこでほかの席とちょっと離れた予約席みたいなところに通され

お酒をAさんが注文した以外に二人共沈黙。もう怖いやら心細いやらで逃げ出したかった。

そのままお酒がきて、どっちも無言でチビチビ飲んでいたら、Aさんがカバンから鍵を3つだしてテーブルに並べた。

なんだろうって思ったらAさんが
「これは君のマンションの鍵ね。駅に近いし眺めもいい。一人で住むには十分だろう。私は週に2回は行けると思う。

こっちは君の車の鍵。(外車だったと思う)免許持ってる?ないなら学校代もだしてあげるよ。マンションの駐車場にあるから。

それと、こっちは今日の部屋の鍵(ホテルの部屋)」

もう、首を左右に小刻みに振って「ダメですダメですダメです」ってずっと言ってたら涙が出てきた。

するとAさん「ひょっとして君、未経験?」今度は上下に首を振りまくっていたけどもう嗚咽で喋れなくてングング言うしかなかった。

Aさん、しばらくポカーンと私を見てたけど頭を掻きながら「なんだなんだ… そっか…」って困った顔してて

それまできつい感じの目つきがちょっと優しくなったような気がした。そして私の年齢や学校の話、地方出身だというと

その地方のいいところをいっぱい言ってくれた。そしてバーなのにコーヒーを注文してくれてそれを飲んでいたら少し落ち着いた。

私が落ち着いてきたのを見てAさんが

「今日は無理矢理付き合わせてすまなかった。

もうちょっと世慣れた子かと思っていたから

いいお付き合いができるかと思ってしまった。

怖い思いをさせるつもりはなかった」と謝ってくれた。

あのスポーツクラブのバイトは続けるのか?と聞かれたので「どうしたらいいでしょう?」って聞いたら

「もし僕が君のお父さんだったら辞めさせるかな」と笑っていた。

速攻やめます!って言ったらまた怖い思いするかもと警戒していたのでホッとした。

そのあとは駅まで車で送ってもらい帰宅したが、家にたどり着いた時に涙がボロボロでてしまった。

翌日にバイト先に退職しますと伝えたら、シフトが残っていたのに昨日付で退職となりオーナーから退職金を渡された。

オーナーは仏頂面で睨んできて恐ろしかった。今なら通報するところだけど

当時はバーでコーヒー飲んだだけで終わったからよかったとしか思わなかった。

退職金は茶封筒に10万円入っていた。口止め料とか慰謝料とかだったのかもしれない。

その後はクラブより賃金が低いけど、まともな企業のバイトをしながら卒業し田舎に帰った。